クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
「今までありがとう。私、亮と付き合えてよかったよ」

 それがこんな形で返ってくる。

「悪かった。もう彼女には会わない。汐里が一番大切なんだ」

 必死に訴えかけると、汐里の瞳から涙がこぼれ落ちる。その泣き顔に俺は息を呑んだ。

 別の女性といるところを見られても、こうして話し合いをする中でも、冷静だった汐里の涙をここにきて初めて目にする。

「亮のそんな顔、初めて見た。……よかった、私のこと少しは好きでいてくれたんだ」

 汐里の言葉に俺は即座に返す。

「好きだよ! 好きでもないのに付き合おうなんて言わない。こんな何年も一緒にいて……」

 “結婚も考えていた”と続けそうになり、今の自分にそれを言う資格はないと言葉を飲み込む。

 逆に、汐里に「好き」と直接口にして伝えていなかった事実を突きつけられた。付き合うときでさえだ。

 ひねくれた性格もあり、いちいち言葉にするものでもないし、気持ちは伝わると過信していた。

 そんな怠慢が、彼女にとって今までの自分の気持ちのすべてを揺るがせるものになるなんて。

「ごめん。事情も話さずたくさん汐里を傷つけてごめん。けれど失いたくない。別れたくないんだ」

 見苦しくても、情けなくてもかまわない。手放したくなくて汐里を抱きしめる。でもなにもかもがもう遅い。

「ありがとう。ごめんね」

 汐里の声はか細くも固い決意が滲んでいた。嫌でも悟る。こうなった以上、どう言い繕っても彼女の心を変えられないのは、何年も一緒にいる俺が一番よくわかっていた。
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