クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 かすかに聞こえてきた言葉に眉根を寄せる。汐里はなにも答えず困惑気味だ。それよりどう見ても顔色が悪い。

「その、ひどい別れ方をしたんだって? 男はそいつだけじゃないよ。そんな最低な奴はさっさと忘れた方がいいって」

 一方的に捲し立てる男に腹を立てつつ俺はふたりの間に割って入った。()しくも汐里に付き合おうと言ったときと同じだ。

 昔の記憶がふと蘇るも、顔には出さず今回も強引に彼女を連れ出す。汐里が戸惑っているのがありありと伝わってくる。

 気まずさを感じないわけがない。とはいえあの状況におかれた彼女を無視もできなかった。自己満足か、余計なお世話か。

 久々の再会にも関わらず、葛藤してぶっきらぼうな態度を取ってしまい、ますますお互いを包む空気が重い。さっさと彼女を解放すべきだ。

「あのね、こんな形でだけど久しぶりに会えて嬉しかったよ。元気そうでよかった。今日は本当にありがとう」

 社交辞令にしろ、汐里の言葉にわずかに救われる。だから俺はさらに踏み込んでみた。

「そんなに遅くはならないから、待てないか?」

 許されるのなら、もう少しだけ一緒にいたい。せっかく会えたんだ。本気で嫌なら無理強いはしない。

 やがて悩んだ末、汐里は最終的に部屋で待つと約束したので、俺は彼女を部屋に残して現場に戻った。
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