クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
「どうでもいいだろ」

「よくない。これ新品だし、このままだと……」

 人の動揺など知るよしもなくそこまで言って汐里はベッドに倒れ込んだ。焦点の定まっていなかった夢現(ゆめうつつ)の瞳は再び閉じられ、彼女はまた眠りについている。

 ひとり取り残された俺は、大きく息を吐いた。よほどドレスを気にしていたらしい。

 まったく。昔から眠っているときに潜在意識が働く体質なのか、そういえば付き合っているときも寝ぼけた彼女に起こされたりもしたと、ふと思い出す。

 そこで、俺はふっと笑みがこぼれた。再会してずっと固かった会話もさっきは無意識とはいえ以前のように話せた。それがなんとも言えない。

 ひとまず汐里が脱ぎ捨てたドレスをハンガーに掛けて、ベッドに戻る。さすがにこのままだと風邪を引くと思い、彼女にシーツをかけて肌を隠した。正直、目に毒なのもある。

 次に目が覚めたら、また自分たちの関係を突きつけられるだけだ。汐里にとって俺は最低の男で、トラウマになっていても無理はない。

 ベッドの端に腰を落として汐里の頭を軽く撫でる。

「……本当に、悪かった」

 呟いてから、これは起きているときに伝えるべきだと考え直す。自分もとりあえず休もうと判断をし、俺は彼女から手を離そうとした。

 ところが、離れるのを拒むように汐里が俺の手を取る。一瞬の出来事で、すぐに力なく彼女の手はベッドに沈んだ。
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