クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 なんだったのか。俺は盛大にため息をついて頭を抱える。そして迷った末にシャツを脱いで同じベッドに入る。

 ぎこちなく汐里を抱き寄せると、彼女は拒むどころか自ら身を寄せてきた。俺は複雑な思いで汐里の滑り落ちた髪を耳にかける。

「俺じゃなかったら襲われてるぞ」

 もう少し警戒心をもったらどうなんだ。その一方で、今は彼女の無頓着さに救われているのも事実だ。

 徐々に冷静さを取り戻す反面、無理矢理しまっていた気持ちがあふれ出す。

 あんな別れ方をして傷つけて泣かせたにも関わらず、汐里への想いがずっと断ち切れなかった。好きで、愛しくてどうしようもない。

 もう同じ過ちを繰り返したりしない。今はあとのきとは違い、親の言いなりになるしかなかった無力な子どもじゃない。自分の気持ちも素直に口にして伝えられる。

 なにより――

「汐里の気持ちも大切にするから」

 悩むくらいなら伝えればいい。先回りして画策(かくさく)し、結論づけるのは傲慢だ。自分の思う最善が相手にとって同じとは限らない。

 痛みを伴って彼女に教えられた。

 汐里を腕の中に閉じ込め、目を閉じる。彼女は朝起きたらどんな反応をするだろうか。

 捕まえておかないと、目覚めたときに汐里の姿がないのは御免だ。

 彼女と会うのも、触れるのも最後かもしれないと覚悟しつつ懐かしい温もりにあっさりと夢の中へと落ちていった。

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