クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 ホテルをチェックアウトして、仕事相手の人に挨拶しにいった亮を少し待ってから、彼の車で送ってもらう。

 大学のときと乗っている車は違っていて、外国産の高級車だ。まさかまた彼の車の助手席に座れるとは。

 私は運転する亮の横顔をちらりと盗み見する。派手さはないのに、すっきりとしてクセのない涼しげな目鼻立ちは、端正さを際立たせる。

 短くても艶のある黒髪は女の私からしても羨ましい。人を惹きつけるオーラがあるのは昔からで、さらに今はスーツがとてもよく似合う大人の色気も加わった。 

『汐里は……まだあのアパートに?』

 突然、話を振られ、すっかり見惚れていた私はあたふたと答える。

『う、うん。会社からもそこまで離れていないし、ひとりで住むのに不便はないから』

 まだ、というのは私の住まいが大学時代から変わっていないからだ。出身が他県なのにもかかわらず、そのままこちらで就職した私は、ずっと同じアパートで暮らしている。

 会社から家賃補助もでるし、もう少し会社近くのいいところで、とも考えたが、借りているアパートが大学からやや距離がある分、駅近くいう立地条件で最初に選んだのもあった。

 あとは引っ越しが面倒というのも大きな理由だ。

 本当は亮と別れた後に引っ越したい衝動にも駆られた。付き合っているとき、幾度となく遊びに来て一緒に過ごした。今のアパートには亮との思い出もある。

 でも、そういった亮の痕跡(こんせき)は徐々に消えていった。正確には消していった。もう五年も経ったわけだし。
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