クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 カウンター越しに落ち着いた初老の男性に用件を尋ねられ、私は亮の部屋の番号と自分のフルネームを告げた。

 男性はパソコンでなにかを確認し私に向き直る。

「谷川汐里さまですね。ようこそ、冴木さまがお待ちです。奥の左手のエレベーターをご利用ください」

 とりあえず話は通っていたらしい。言われるままに私は奥に突き進む。

 そういえば、大学時代に亮が住んでいたマンションも学生が借りるようなものではなかった。

 『家賃いくら?』と単刀直入に尋ねると、彼は『知り合いが管理しているから』と言葉を濁して、詳しい事情は話さなかった。

 私も深く追及しなかったし、亮の家が会社をしているというのは聞いていたから、そういうものなのかなって納得していた。

 社会人になって自分でお金を稼ぐようになり彼の住んでいたマンションがいかに高級なものだったかがわかる。

 私って本当に無知というか、能天気というか……。

 思わずため息が漏れ、慌てて荷物を持ちなおす。昇っていくエレベーターの中で気を気持ちを立て直し、私は彼の部屋に急いだ。

 インターホンを押し、ほどなくして中から亮が顔を覗かせる。

「こんばんは」

「お疲れ。来るのに手間取らなかったか?」

「うん、大丈夫」

 首元に白いラインの入ったネイビーのブイネックのシャツに黒いズボンと、亮は完全な私服だった。

 彼の自宅なんだから当然か。亮はそつなく私の荷物を持つとさらにドアを大きく開けて中へ促す。
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