クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 触れ合う唇も、耳も熱い。次第に吐息さえ熱がこもっていく。

「ん、やだ」

 顎を引いて訴えかけると、多少は息を乱した亮が意地悪い笑みを浮かべている。

「相変わらず弱いな」

 そう言って、耳たぶに音を立てて口づけられ、私は目を見開いた。

「っ、もうご飯作ってあげないから」

 早口で捲し立てると、亮は眉尻を下げて笑った。

「それは困る」

「だったら」

「しょうがないだろ、汐里があまりにも可愛いから」

 私がなにかを返す前に唇が重ねられる。

「汐里」

 離れた唇からは、打って変わって低く真剣な声が紡がれる。そしてキスを再開させようとする亮に私の心が葛藤で揺れ動く。

「あのっ、明日用事があって……今日は帰らないと」

 続けるのか、やめるのか。聞かれたわけでもない。でも私の発言は間違いなく“答え”だった。亮はわずかに顔を歪めたが、そっと私の頭を撫でた。

「わかった、送っていく」

 亮がさっと私から離れ、ふたりの間に(こも)っていた空気が逃げる。同時に甘やかな雰囲気も消えていった。

 安堵して、その一方で後悔にも似た苦さもあって、気持ちが混ざり合う。私は髪を手櫛で整え、ついでに呼吸も落ち着かせる。

 水槽の中は相変わらず色とりどりの熱帯業が自由気ままに泳いでいた。
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