クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
「で? 彼の家を訪れては、馬鹿正直にご飯を作って、泊まりもせずに律儀に帰ってくる、と」

 わずかに首を傾げた香織の髪が重力に従って軽く目にかかる。それを耳にかけ、ゴールドのピアスが姿を現した。

 前髪なしのショートボブヘアは大人っぽく、彼女によく似合っている。自然と醸し出す色っぽさが羨ましいと凝視していると不意に目が合った。

「汐里、聞いてる?」

「う、うん」

 そこで今、自分が置かれた状況を思い出す。

※ ※ ※

 七月下旬の土曜日、私は同僚でもあり友人でもある牧野香織と久々に自宅で会っていた。

 岡元くんとの件を気にして、それとなく探りを入れられたので躊躇いつつも正直に『彼氏ができた』と話したのだ。

 大きく目を見張ったかと思えば、香織は私の都合などほぼお構いなしに週末に私の家に遊びに行くから時間を作るようにと命じてきた。

 せっかくなのでお昼でも食べていってと提案し、宣言通り昼前にやってきた彼女にパスタとサラダを振る舞った。

 料理しつつ創立記念パーティーで亮と再会し、付き合うことになった経緯をぎこちなく香織に語っていく。

 ちなみに岡元くんには会社で会った際に『やっぱりお付き合いはできません』と改めて自分の気持ちを告げておいた。

 それらを含め報告していく。こういうとき自宅だと周りの目や誰かに聞かれる心配などをしなくていい。香織は余計な口を挟まず、たどたどしい私の説明にじっと耳を傾けていた。
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