クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
「なに?」

「いや、それが……」

 浮かしていた腰を再び落とし、私はどう答えようか迷った。一方、香織の顔はどんどん渋いものになっていく。

 美人はどんな顔をしても迫力がある。だからというわけではないが、私は正直に今回付き合い始めてから、まだ亮の家に泊まったことがないと白状してしまった。

※ ※ ※

 これが取り調べなら自白もいいところだ。とはいえ 最初から話すつもりでいたのだから結果的にはこれでよかったのかもしれない。

 そう。香織に改めて指摘された通り、初めて亮のマンションに足を運んでご飯を作り、結局あれから二回ほどお邪魔したけれど、どちらも同じ流れで泊まらずに帰ってきている。

 なにげなく私が時計を気にしたり、不意に沈黙が降りてきたタイミングで「帰るか?」と尋ねられると、私はいつも頷いてしまう。

 絶対に帰らないといけないわけでもない。もっと一緒にいたい気持ちもあるし、そう伝えればいいのにできない。踏み込めない自分もいて、どうしてなのか私自身が知りたいくらいだ。

 複雑怪奇な気持ちの解決策が欲しくて、香織に話した部分もある。

 香織は情報を理解しようとこめかみに手を当てた。

「えーっと、改めて確認するけど、汐里が今付き合っている相手は、大学のときに付き合っていた忘れられない例の彼で間違いないんだよね?」

「うん」

 小さく答える私とは対照的に香織は身を乗り出しそうな勢いになる。

「え、なに? まさかそのとき手を繋ぐのが精いっぱいだったとか、今どきの中学生でもびっくりな付き合いをしてたわけじゃないでしょ?」

「……うん」

 香織の言いたいことはわかっている。亮とはそれなりの付き合いはしてきた。むしろ彼以外まったく経験がないのもいかがなものかと。
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