クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
「なら、なんでもういい大人になったふたりが再会して、そんなスローペースなわけ? お互い想い合って好きだったんでしょ? 泊まるでしょ! 泊まらなくてもやることはやるでしょ!」

 痺れを切らした香織がついにあけすけな言い方をした。友人とはいえこういった話題はどうしても慣れない。私は顔を赤らめつつぼそぼそと続ける。

「いや、だって忙しそうだし」

「なに? 相手のせいなの?」

 言うが早いが返ってきた言葉は容赦ない。でも香織の言うことはもっともだ。押し黙る私に香織がため息をつく。

「あのね。話を聞く限り、相手は汐里にずっとうしろめたさを感じていたわけでしょ? そんな中で再会して告白したのも相当な覚悟があったと思うよ」

『だから、もう一度俺を選んでくれ』

 あのときの亮の言葉には真剣さと必死さが滲んでいた。軽い気持ちで言われたわけではないのくらい、私だってわかっている。

 偶然再会したからだとか、昔の思い出に引きずられてだとか、そういう話はない。私も生半可な気持ちで彼に応えたわけじゃない 。

 そうなると、やっぱり……。

「覚悟が足りなかったのは、私の方なのかな?」

 独り言にも似た発言には、目の前の人物から律儀に返事がある。

「ま、一度失敗してるわけだしね。あっちに原因があったなら尚更、彼から強気に迫れないだろうし。ある程度は汐里から歩み寄りをみせてあげないと」

 相変わらずの物言いに当惑の笑みで返す。でも今の私に必要なのは下手な慰めではなく、キツくても本質を突いてくれる言葉だった。

 香織に感謝して、私は今度こそグラスと机を拭くものを取ろうと腰を上げた。
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