クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 八月に入り平均気温も三十度超えが当たり前の日々。都会のビルの間でも蝉たちの鳴き声は反響し、元気に存在を主張している。

 それは意外と日が暮れた後もだった。亮のマンションに向かう途中、肌に滲む汗に不快感を覚えつつ嫌でも夏を感じる。

 それもマンションに一歩足を踏み入れればすべてがシャットダウンされた。季節どころか時間さえも。

 ここは空調も明かりも完全にコントロールされ、常に変わらない快適さを住人や来客者にもたらす。いつものコンシェルジュが笑顔で迎えてくれた。

 あまりにも作られた空間の中で、受付の奥の棚に飾られているスターチスの花がどこか刹那的で妙にホッとする。

 ここに来るのももう四回目になるのに、今日の緊張はなんとも言えない。

 というのも、いつもならふたりでご飯を作って食べた後、まったりお茶をしたら帰る流れなのに今日はそうじゃないから。

 その証拠に私は今、彼のマンションのソファの背もたれに体を預け、だらしなく天井をぼーっと見つめている。

 こんなにも気を抜けた体勢を取れるのは、亮がいないからだ。正確にはいるんだけれど、彼は今バスルームにいる。

 前回までならとっくに帰宅している頃、私は彼の家で先にシャワーを借り、まっさらの淡いピンク色の半袖半ズボンのパジャマに身を包んでいる。

 サテン生地が肌に心地よく、火照(ほて)った体の熱を奪ってくれそうな気がした。天井から視線を外し、私は大きくため息をついてからソファの上でぎゅっと身を縮める。
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