クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 パジャマの生地をぐっと握り、気合いを入れると、不意に体に違和感を覚える。あまりよくない嫌な予兆だ。

 あ、あれ?

 無意識に右手でこめかみを押さえた。神経がピクリと動いた気がして頭に小さい痛みが走る。

 なんで、こんなときに……。

 自分の間の悪さを呪うしかない。定期的に訪れる偏頭痛が、よりによってこのタイミングとは。

 私は眉をひそめて自分の鞄に近づき、中から慌てて薬を取り出した。ちょうどテーブルの上には飲みかけのミネラルウォーターのグラスがあったので、手を伸ばし素早く薬を口に入れる。

 大丈夫、すぐに痛みは治まる。

 自己暗示をして、立ち上がったついでにソファのうしろに設置されているアクアリウムにそっと近づいた。

 水槽に触れない程度まで顔を近づけると、エアーポンプから小さな泡がいくつも飛び出し、かすかにコポコポと音を立てているのが耳に入る。

 それが聞こえているのか、いないのか。中を泳ぐ熱帯魚は、水草の緑の合間をすり抜け、それぞれわがもの顔で行ったり来たりしている。

 頭の痛みから意識を逸らし、私は釘付けだった。なにを考えるわけでもなく、全体を視界で楽しみ、ときどき目についた魚を観察してみる。いつまでも眺めていたいし、いられる。

「汐里?」

 ところが名前を呼ばれ、唐突に現実に引き戻される。完全な不意打ちで、私はすっかりアクアリウムに心を奪われていた。
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