クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 振り向けばドアのところに亮が立っている。襟付きの黒いパジャマ姿で、湿り気を帯びた髪は下ろしているからか、スーツ姿よりもいくらかあどけない感じがする。

 新鮮さよりも懐かしく思えた。

「本当に好きなんだな」

 呆れた面持ちの彼に、私は微笑んだ。

「うん。羨ましいな。こんな素敵なアクアリウムが家にあったら仕事で疲れて帰ってきても癒されるでしょ?」

 水槽と亮を交互に見れば、亮は無言でこちらに寄ってくる。

 彼にとってこのアクアリウムは、半分仕事みたいな話だったから、もしかして見当違いなことを言ったかな?と一瞬不安になった。

 亮は水槽というより私に一直線に向かってくる。おかげで私も彼から目を逸らせずにいた。

 そして、パーソナルスペースを踏み込むほどの距離まで近づいた彼が、ふと私の髪先に触れた。まるで存在を確かめるように。

「こうやって汐里が家にいる方がよっぽど癒される」

 真面目に(つむ)がれ、続けて頬に触れられる。思わず体を引きそうになったが、先に彼の手の温もりが肌に伝わってくる。お風呂上がりだからか、異様に熱く感じて、私の心臓は早鐘を打ち出した。

 亮の出方をちらりと窺えば、彼はにっと意地悪く微笑んだ。

「今日は譲らなくていいんだろ?」

「……ゆず、る?」

 クエスチョンマークを頭の上に浮かべ、間抜けにおうむ返しをする私に亮は笑みを崩さない。

「DVDを一気に見る必要はないのかと」

 脈絡(みゃくらく)のない台詞なのにもかかわらず、どこか覚えのあるフレーズに、私の奥底にしまっていた記憶が溢れだす。
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