希望の華


「なんでもありません、気にしないでください。

そうだ、昨日のお礼に面白い話、してあげますよ。」

「おお、なんだい。聞かせてくれ。」



彼は、木箱に腰かけその見かけに似合わない無邪気な笑顔を見せた。

昨日彼がくれた団子の礼に、すこし、娯楽を提供しよう。



「今からずっと先の未来の話とでも思ってください。
今こうやって反乱の起きているこの国はいつしか世界を相手に戦うことになったとします。
そして何度も戦いを繰り返し、やがて平和が訪れる。」

「そうか、そうだといいなあ。」



彼は興味深そうに相槌をうってくれる。
私はそれが嬉しくて、話をつづけた。



「そうすれば、戦いを生業にする人間は減るでしょう。
その中でも、戦いがあった頃と同じように、訓練を続ける忍の一家がある。

そこに生まれた戦いのない時代しか知らない子供は、幼いころから訓練を重ね、十五のころにはその力を一人前に身に着けたとしましょう。

でもそこには。」

「戦がない。」

「そう。だからその子は力を持て余すようになります。

師匠からは、いつか出会う主のため、忠誠を誓う人のため、力をつけつづけろと言われる。
でもその子は手持ち無沙汰なその能力に苦しむようになるでしょう。



自分はなんのために生きているのか。自分はどこに向かっているのか。

生きている理由さえ、わからなくなる。」

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