副社長の歪んだ求愛 〜契約婚約者の役、返上させてください〜
「……たぶん、父が亡くなってからでしょうね。楽しかったピアノを辞めざるを得なかったり、母と二人の暮らしで、贅沢とは無縁だったり……
決してそれで何かを恨んだり、誰かを羨んだりしたことはないんですけど、なにか自分の希望は二の次のような感じになってしまって。
だから……うまく言えないんですけど、今のような自分になったんだと思います。
投げやりじゃないですけど、なんでてもいい、あるもので、できるものでいいって思ってしまうんです。
すみません。好きな色とか欲しい物とか、簡単なことを素直に言えないなんて、面倒ですよね」

「美鈴……」

突然、啓太さんに抱きしめられた。
隅の方にいたとはいえ、ここは店の中だ。

「け、啓太さん、どうしたんですか?」



少しして私を離すと、啓太さんは突拍子も無いことを言い出した。

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