目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。
どうやら、男の人のよう……。
私は玄関入り口に少し大きめのスリッパを用意して扉に手をかけた。
その気配を察知したのか、大きな人影は低いトーンで、でもハッキリと名前を名乗った。

「こんばんは……一色蓮司です」

一色……蓮司。
唐突過ぎて頭が混乱した。
確かに知っているのに、そんなはずないと頭がそれを拒否している。
考えも纏まらないまま、私は、その名前を繰り返した。

「一色……蓮司……さん?」

玄関の向こうで人影が不安そうに揺れた。
いっしき……れんじ……。
一色さん……一色さんっ!?

「あっ!一色さん!はい、今開けますね!」

そうだ。
フルネームで呼ぶことはなかったから、気づかなかった。
一色さん、一色蓮司さんだ!
私はゆっくりと扉を開けた。

「突然ごめん。葬儀以来だけど……その後どう?」

そこにいたのは、昔よりも更に洗練され、スーツが良く似合う非の打ち所のないイケメンだった。
きっと、社長になったのだろう。
着ているスーツ、付けている時計、絞めているネクタイ。
全てが桁が何個か違うような代物だ。
いきなり値踏みしてしまい、私は急いで何度も繰り返した挨拶をここでも披露した。
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