目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。
それは本心だった。
誰が見ても、ちんちくりんの私と雑誌から抜け出して来たようなイケメン社長とじゃ釣り合わない。
せいぜい家政婦さんとご主人サマがいいところ。
このまま押されて結婚しても、きっと「価値観の違い」というありふれた理由で別れるに決まってる!
いくら押しに弱い私でも、こればっかりは……。

「百合。俺も本当のことを言う」

いきなり一色さんが何かのカミングアウトを始める。
お断りの言葉を探して、頭を巡らせていた私は、何事かと考えていたことを忘れた。

「教授の訃報を知らされて、葬儀に行った時……5年ぶりに君を見た。昔の面影もあったけど、俺の中で君は全く別の存在になっていたんだ」

「それは……どういう……」

私の問いかけは、今度は一色さんに制された。

「教授の娘、妹のような存在という立場から、一人の美しい女性として俺の目に映った。これを何て言うのか……自分でも初めてで良くわからないんだけど、どうやら、一目惚れらしいよ」

……卑怯だ。と、思った。
彼は今、私が断る理由に上げた事柄を全て取り去ってしまった。
教授の娘だから同情したんじゃない。
妹のような存在だから言ってるんじゃない。
一人の女性として一目惚れしたんだと言ったんだから。
最早、私が拒絶する理由も、不安に思う理由も無くなってしまった。
そして、その理由を探すことももう止めた。
一度敗北を認めると、あとはもうスルスルと引寄せられるだけだった。
ああ、本当に初恋って厄介だわ。
そう思いながら、加速していく彼の話にどんどん引き込まれていった。
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