俺様副社長に娶られました
実沢が言うように、俺は八つも年下の沙穂に懐柔されまくってるのかもしれない……仕事中も早く帰りたくて仕方無いし。
沙穂が作る手料理も、どれも美味しい。
母が居酒屋でよく作っていた、田舎の家庭料理を思い出す懐かしい味わい。

沙穂が作ってくれたものの中で、一番印象に残ってるのはなんといっても甘酒だ。

子どもの頃、親父に連れられて川原酒造の蔵を見学に行った。
あれは母を亡くして落ち込む俺を心配した親父が、少しでも気分転換になればと連れ出したんだ。
そこで出会った沙穂はまだ、小学校に上がる前。


『お父さんが作ったの! 甘酒、飲んでみて?』


にっこりと俺に紙コップを差し出した。
周りの大人たちは皆、俺を腫れ物のように扱ったけれど、垣根無い態度で接してくれたのはその子だけだった。


『甘酒は、心と体の健康に良いんだよ! お兄ちゃんも飲んだら元気になるよ』


あの隔ての無い純粋な笑顔に、心も体も弱りきっていた俺がどれほど救われたか。

身に染み入る美味しい甘さを噛み締めて、「母さんにももっと早く飲ませれば良かった」なんて、子ども相手に涙声で呟いてしまった俺のことを、沙穂はとても悲しそうな目で見た。

幸せそうに大口を開けて苺を頬張る沙穂は、そんな昔のこと、覚えちゃいないだろうけれど。

だから実沢が言う知恵熱を出したとき、俺は懐かしい甘酒の味に思い出が蘇ってつい抑えが効かずに沙穂にキスをしてしまった。

さっきはガキに言った〝年季なら負けない〟という言葉は紛れもない事実で、あの小さかった優しい子の面影を、俺はずっと忘れられずにいた。
俺のその子に対する憧憬は可愛らしい子どもとしての淡い思い出としてではなくて、進行形の恋心だと自覚したのは結構大人になってからだったから、八つも下の相手にときめいている自分がヤバい奴なんじゃないかって思ったりもしたけれど。

誰にどう思われてもいい。
沙穂さえそばにいてくれたら。

これまでは親父が北極星に執着する気が知れない、なんて思ってたけれど、今ならわかる気がするな。
ま、俺の執着心と独占欲の強さは、親父譲りってことで。


END
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