婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
「政略結婚ではありますけど新さんを尊敬していますし、結婚したからには妻として精一杯尽くしたいと思っていますよ。だから変な気なんて使わないでください」

 あの日から約半年間かけて私なりに覚悟を決めて、夫となる彼に誠意を払う決心をした。

 目を合わせてはっきりとした口調で言うと、新さんは渋い顔を作る。

「そういう意味じゃなくて」

 続きの言葉はスタッフが運んできた料理によって阻まれる。

 なにを言おうとしたのだろう。

 スタッフが離れていっても料理には手を付けずに待っていたが、「食べないのか?」と首を傾げられる。

 また真意は知れないのか。

 不満をあげるとすればやっぱりこの言葉数の少なさだ。

「いただきます。……おいしい!」

 私の目がキラキラと輝いていたのだろう。目が合った瞬間、まるで小さな子供を相手にするかのような優しい顔で微笑まれた。

 あっ……久しぶりに笑った。

 余所行き顔ではない時は滅多に笑顔を見せないので、その貴重な表情に思わず目を奪われる。

 紳士で爽やかなのも嫌いじゃないし素敵だけれど、こうしてふたりきりの時に見せる本来の姿がやっぱり一番いいな。
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