婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
 それから海の幸や地元の食材にこだわったフレンチを存分に堪能して、時間に追われる心配もなくのんびりと楽しいひと時を過ごした。

 食事の後はノープランだったのでドライブに行こうかと提案されたのだが、私はずっと気掛かりだったことを口にする。

「あの家には料理を作る調味料も食材もありません。車がある時じゃないとたくさん買い込めないし、できればこれから買い出しに行きたいのですが……。もちろんドライブも魅力的ですよ? でも……」

「分かった。そうしよう」

 表情や声音を窺う限りでは特段不機嫌そうではない。

 よかった。せっかく誘っていただいたのに失礼にならなくて。

「茉莉子の料理が食べたいし」

「あまり期待しないでくださいね。いたって普通の腕前ですから」

「今夜は作ってくれるのか?」

「そのつもりですが、いいですか」

「そうだな……できれば豚の生姜焼きが食べたい」

「そんな簡単なものでいいんですか?」

「あれって簡単なのか?」

 本当に料理の知識がないのだなと分かる発言に、ほんわかした気持ちになりながら質問に答えていく。

 こうやっていろいろな顔を知っていけるのは楽しいかもしれない。

 世間一般の人たちとは違う形で夫婦となったけれど、少しずつでいいから普通の夫婦になれたらいいな。
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