婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
 劣等感ではないけれど、少しだけ沈んだ気持ちを振り切って、おいしいと言ってもらえるように一生懸命腕を振るった。

 初めての手料理はリクエストのあった豚肉の生姜焼き。それを乗せたお皿にはキャベツとトマトとポテトサラダを盛り付け、それから豆腐と厚揚げの入った味噌汁に、ほうれん草のごま和えときゅうりとわかめの酢の物を副菜に選んだ。

 生姜焼きがわりとしっかり味がついているので、他は口がサッパリするようにしてみた。

 お肉は多めに焼いたけれど、これで足りるかな?

 うーん、とキッチンで唸っているところへ新さんがリビングへ入ってきて、物珍しそうに鍋やフライパンを覗き込む。

「もう少ししたら声をかけようと思っていたところです。すぐに食べますか?」

「ああ」

「そっちに持っていくので座って待っていてくださいね」

「運ぶくらい手伝う」

「……えっと、じゃあ、盛り付けるのでそれを運んでもらって……」

 キッチンにふたり並んで作業するのが照れくさくて胸の辺りがむずむずする。

 お父さんはずっと座っている人だったし、なんとなく新さんもそうだと思っていた。

 勝手に想像していた旦那様像とはかけ離れていて、彼の優しさや思いやりに感心させられてばかり。
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