【女の事件】黒煙のレクイエム
第33話
てるよしが行方不明になってしまった翌々日のことであった。

玉2丁目のあきよしの実家には、てるよしとあきよしの両親と姉とてるよしの弟たちが来ていた。

てるよしが勤務先の工場の従業員さんを結束の機械で首を絞めて死なせた事件と嫁さんにきつい暴力とレイプでボロボロに傷つけた上に嫁さんのさいふから大金を取り上げて逃げたこととあきよしが年金機構に大規模な被害を与えてしまったことなどで家族がヒヘイしていたので、今後のにことについて話し合っていた。

しかし、話し合いに入ったところからひどい大ゲンカになってしまった。

てるよしの嫁さんは『もういや!!耐えることができない!!山口県の実家に帰りたい…帰りたい…』としくしく泣いていたので、てるよしの嫁さんは伊保田の実家で暮らしている親元へ帰すことにした。

問題は、あきよしのお嫁さんであるアタシの処遇であった。

アタシは、東日本大震災の時に発生した巨大津波で暮らしていた家と実父と義母をなくしている上に、実父の身内の塩竈市の家や身内を津波でなくしているそのまた上に、高松の義母カタの実家とソリが合わないことで帰るふるさとがないので、残っているきょうだいたちが代わりにアタシを愛してほしいとてるよしの母親が泣きそうな声で言うたので、てるよしとあきよしの姉が激しく反発をした。

てるよしとあきよしの母親は、なおも泣きそうな声で言うたので、きょうだいたちは怒り心頭になっていた。

「お願いだからあんまり大声で怒鳴らないでよ…どうしておだやかに話し合いができんのよぉ…」
「おだやかに話し合いができたらこんなことにはなっていなかったわよ!!おとーさん!!どうして、てるよしとあきよしにばかり結婚しろと求めていたのよ!?だまっていないでアタシの問いに答えなさいよ!!」
「お願いだからやめてよ…おとーさんの夢は、たくさん孫が生まれて孫たちに囲まれて余生を過ごすことが夢だったのよ!!てるよしの嫁さんは山口県に帰ることになったから、せめてこずえさんに家にいてほしいのよ。あきよしに代わってこずえさんを愛してほしいと、まさよし(次男・36歳)にお願いをしているのよ!!」
「何やその言いぐさは!!オレは相当怒っているのだぞ!!」
「まさよし…どうしてそんなに怒るのよ!?」
「怒りたくもなるわ!!オレにこずえさんと結婚しろと言いたいのか!?せっかくカノジョと結婚が決まったのにオドレが挙式披露宴を止めて別れろと強要したけん、オレは怒っとるんや!!」
「悪かったわよ…だけどねまさよし…好きだからカノジョと結婚ができるとは限らないのよ…」
「こずえさんが東日本大震災の震災孤児だからかわいそうだと言いたいのかよ!?けっ!!冗談じゃないよ!!オドレがオレとカノジョの結婚にケチをつけてきたから、一生うらみ通してやる!!アホンダラのあきよしの代わりになれと言うのだったら、考えがあるぞ!!」
「まさよし…どうしてもダメなのかい…それじゃあ…たかよし(四男・30歳)…たかよしがあきよしに代わってこずえさんを愛してあげて…」
「冗談じゃないよ!!オレは、非正規雇用で低賃金でいつクビになるのか分からない職業なんだよ!!安いお給料でどうやって嫁さんを養えと言うんや!!」
「気持ちは分かるけれど、今は非常事態におちいっているのよ!!お給料が少ないのだったらおとーさんとおかーさんが近所にお願いに回って、足りない分を借りに行くから…」
「足りない分を足してあげるから結婚しろと言うのか!?経済的に自立できていないのに結婚なんかできるものか!!」
「たかよし!!」
「何や!!まだ言いたいことがあるのかワレ!?」
「それだったら、みつよしはどうすればいいのよ!?」
「みつよし(20歳・末っ子)がどうかしたと言うのか!?」
「みつよしを見てごらんよ…みつよしは…着ているTシャツに書かれているメイドさんがお嫁さんだから結婚したくないと言うているのよ!!」
「別にいいじゃん!!Tシャツに書かれているゲームのキャラクターのメイドさん(嫁)が好きなのはみつよしの自由なんや!!それのどこが困ると言うんゾ!?」
「困るから言うているのよ!!」
「オラ!!アホンダラオヤジ!!」

(ドカッ!!)

思い切りキレてしまったたかよしは、右足で父親をけとばした。

「オドレアホンダラオヤジ!!」

続いて、まさよしが父親をグーで腕のつけねをガツーンとこぶしで殴った。

「オドレ!!オドレのアホンダラが原因でてるよしとあきよしがDVの加害者になったんや!!分かっとんかボケ!!」
「やっつけてやる!!表へ出ろバカオヤジ!!」
「悪かったよ…ワシが悪かったよ…こらえてくれぇ~」
「それが人に対してあやまる態度か!!」
「オドレのせいでカノジョと別れたのだから、やっつけてやる!!」
「オドレのせいで条件の悪い職場しかなかったのだよ!!」
「てるよしとあきよしがDV魔になったのはオドレが原因なんだよ!!」
「底なし魔!!」
「トバク魔!!」
「暴行魔!!」
「ぶっ殺してやる!!」

(ドカドカバキバキ!!ドカドカバキバキ!!)

怒りが噴出したまさよしとたかよしは、父親に対してシツヨウに殴るけるの暴行を加えていた。

みつよしは、ショルダーバッグの中からゲームのメイドさんのイラストのセル画を出して、『嫁』と言うていた。

母親はしくしくと泣いていた。

てるよしの嫁さんは、キーッとなって、ダイニングキッチンの戸棚から食器を手当たり次第に取り出して、てるよしとあきよしの母親に投げつけて攻撃した。

そして、家の物を手当たり次第に壊してめちゃくちゃにしていた。

キンリンの住民は、てるよしの家での大暴動を聞いていたので『もう許さない!!』と言うて思い切りキレていた。

その後、キンリンの住民も出刃包丁や金属針などの凶器を持って、てるよしの家に殴り込んで行った。

玉2丁目のてるよしの家のキンリンは、きわめて危険な状況下におちいっていた。

その頃であった。

ところ変わって、岡山市南区の国道30号線の倉敷川にかかっている大きな橋の下にて…

アタシはバイト休みを利用して、少し遠出をしていた。

その時に、橋の下にある敷地内で大きめの花束をお供えをしている女性を見かけたので声をかけてみた。

「あのー。」
「はい、何のご用でしょうか?」
「ああ…大きめの花束をお供えしていましたので…どなたかが事故でなくなられたのかと思って聞いてみたのですが…」
「事件で亡くなった女のコのお弔いをしていたのよ。」
「お弔いって…」
「あんたしらんかったん(知らなかったの)?今から24年前に、ここでレイプ事件が発生したのよ。」
「レイプ事件…」

アタシは、女性から24年前に玉野市内の信金の職員が集団レイプの被害を受けて亡くなった事件が発生したことを女性から聞いたので、まさかと思っていた。

花束をお供えした女性は、ひと間隔あけてアタシにレイプ事件のいきさつを話した。

「事件が発生したのは24年前の今日の夜9時前のことだったかしら…亡くなった女のコは、あの日が19歳の誕生日だったのよ…職場からまっすぐに家に帰ろうとしていた時に…派手な色に染めていたミニバンに乗っていた男のグループ7人に連れ去られて…ここでシツヨウにレイプして…その後置き去りにしたのよ…亡くなった女のコは…泣き叫びながら恋人の名前を呼んでいたのよ…女のコは…置き去りにされた後に…頭に負った傷が原因で亡くなったのよ…それから10日後に、橋の上でバイクがミニバンと衝突事故を起こして男性が亡くなった事故が発生したのよ…その時に、乗っていた男のグループ7人が逮捕されたのよ…グループのひとりに17歳の少年がまざっていたのよ…目星はついているわ…玉2丁目で暮らしているK崎の家の長男…てるよしくんだったと思うわよ。」
「てるよしが、24年前のレイプ殺人事件に関わっていた…と言うことでしょうか?」
「そうよ…てるよしは、高校卒業に向けて大切な時期なのに、24年前のレイプ事件が学校に知れ渡ったので、無期限キンシンでリューネンしたのよ…」
「無期限キンシンでリューネン…」
「おまけに…犯行に使われたミニバンの所有者がてるよしのいとこのクルマだったので、なお状況が悪くなったみたいよ。」
「えっ、そんな…」
「てるよしは…玉野市内の高校をリューネンしたけど…高校に行かないとはぶてて(怒って)、にガッコーを変えろと両親に凄んで行ったのよ…ご両親はどうすることもできないので、別の受け入れ先の高校を探したのよ…てるよしは、その後灘崎の特別支援学校の総合産業科に転学したわよ。」
「灘崎の特別支援学校に転学?」
「しらんかったん?」
「ええ…てるよしが特別支援学校…えっ…ウソでしょ…」
「てるよしには、軽度の知的障害があったのよ…その事が分かったのは、前にいた高校に両親が知らせていたのよ。」
「それで、灘崎の特別支援学校に転学となったのね。」
「そう言うことよ。」
「あのー…どういったいきさつで、てるよしは軽度の知的だと分かったのでしょうか?」
「話すことはできん!!」
「ノーコメントだと言うことでしょうか?」
「そうよ!!」
「だけど…」
「てるよしがどういったいきさつで軽度の知的障害になったのかについては、答えることはできないと言うているのよ!!あんたはアタシが言うている意味が分かってへんみたいね!!全く(ブツブツ)…」

女性は、アタシにこう言うた後、ふくれっ面の表情をしてアタシの前から立ち去った。

これ以上お話をすることができないって…

一体どう言うことなのかしら…

でも…

あまり深入りしない方が…

いいみたいだわ…

だけど…

気になるわね…

アタシはこの時、頭がサクラン状態におちいっていたので、ボウゼンとした表情でたたずんでいた。
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