【女の事件】黒煙のレクイエム
第50話
アタシが春日井市から家出をしてから何日過ぎたのかよくわからんかったけど、ひろゆきの家ではよくないことばかりが続いていた。

北海道で合宿免許中にメイテイ状態で人の車を盗んで、ひき逃げ事故を起こして一家5人と若い会社員の男性の生命と将来をズタズタにしてしまったことやチンピラと大乱闘を起こして鉄砲で撃って死なせたことやホームレスの男性と警察官を鉄パイプで殴って死なせた事件を起こして逃げているひろのりは、父親から戸籍をはずされて自暴自棄におちいっているので、極めて危険な状態になっていると思う。

ひろのりをカンドウしても、ひろゆきの家の家族が凶悪事件を起こしている以上は汚点が残るけん、どんなに洗っても汚物は落ちることはないと思う。

そんな中で、ひさよはどうにか結婚相手を見つけることができた。

ひろのりがつけた汚点が原因で、結婚をすることが厳しくなっている中で、ひさよは父親が経営している運送請け負い会社で一番の働き者の平岡さん(39歳・タンクローリー車の運転手)を選んだ。

平岡さんは、17年間文句ひとつも言わずに安いお給料で会社のために働いてきたので、ひろゆきの父親はそろそろ何とかしてあげたいと思っていた。

義父が『ひさよとお見合いをしてみてはどうかな…』と平岡さんに提示してみたところ、平岡さんはひさよとお見合いをすることを了承した。

ひさよは、一度はあきらめた女の幸せを取り戻す機会が回ってきたので、安心した気持ちになっていた。

しかし、降りが悪いことに父親と大ゲンカをしたあげくに家出をした後、父親から戸籍をはずされていた一番上の姉のまさよが目付きの悪い男を連れて突然実家に戻ってきた。

まさよは『カレと結婚がしたいから戸籍を回復してほしい…ダメなら籍を分けてほしい…』とお願いをしたが、父親が口をへの字に曲げて今はひさよのお見合いのことで頭がいっぱいになっているからあとにしてくれと言われたので、まさよは腹を立てて恐ろしい目付きをした表情で父親に凄んでいった。

「おとーさん!!おとーさんはアタシよりもひさよの方がかわいいと言いたいのよね!!アタシは思い切りキレているのよ!!カレと結婚がしたいのに区役所に婚姻届けを出しにいったらアタシの戸籍がないから受理できませんと職員から言われたのよ!!どうしてくれるのよ!?」
「たがら、戸籍を回復するためには複雑な手続きがいろいろとあるのだよ…」
「何なのよおとーさんは一体!!アタシのことをにくたらしいと言うて、ひさよばかりにエコヒイキしているけん、ぶっ殺してやる!!」
「まさよ…今は、ひろのりが北海道でひき逃げ事件を起こしたことが原因でひろのりをカンドウして戸籍から外したあとで、家族の気持ちが不安定になっているからあとにしてくれと言うているのだよ。」
「もういいわよ!!アタシの戸籍が回復することができないと言うのならば、アタシはあんたたちの家の家族を一生うらみとおして生きて行くから!!ひさよは、やっとチャンスが回ってきたけん、鼻がテングになってえらそうな態度を取っているのよ!!」
「まさよ!!ひさよにどうしてひどいことを言うのだ!?」

その時であった。

まさよが大声で怒鳴り散らしていたのを聞いたひさよは、居間にやって来た。

この時まさよと目付きの悪い男が、ひさよに詰めよって凄んできた。

「あらひさよ…聞いていたのね…いいわねぇあんたは…(きつい目付きをした表情で)あんた両親の愛情をひとりじめにして育って来たのだから、あんたのことは今でもはぐいたらしい(イライラする)のよ!!分かっとんかしら!!」

目付きの悪い男は、ひさよに『ふざけんなよ!!まさよを怒らておいて自分だけ幸せになろうとしているのかよ…』と言うて、顔に思い切りつばをはいた。

まさよと目付きの悪い男はニタニタした表情で『思いしったか…バーカ…』と思いながら見つめた後、父親に対して『アバヨ…バカオヤジ…』と言うて高嗤い(タカビーわらい)を上げながら家から立ち去った。

ひさよは、そうしたわだかまりを抱えたまま6月29日に春日井市内の高級料亭で平岡さんとお見合いをすることになった。

お見合いの席になっている個室の座敷は、平岡さんのお母さまと兄夫婦とひさよとひさよの両親がいて、8000円の高級仕出し弁当を食べながらお見合いに入ろうとしていた。

この時、ひさよがうつむいた表情になっていたので平岡さんの兄夫婦があつかましい表情で『かあさん!!もう帰ろうよ…こんな状況ではお見合いなんかできないよ!!』と小声で言うたけん、お見合いは険悪なムードに包まれていた。

ひさよは、まさよと目付きの悪い男から言われた言葉で強い恐怖感を抱いていたので、頭がサクラン状態におちいっていた。

お見合いは、いったん中止にして日をあらためてもう一度することになった。

ひさよは、お見合いをしたくないと言うて大声を張り上げて泣き出したので、両親は困っていた。

その日の夜のことであった。

アタシがバイトをしているファミマに義父がやって来て、アタシに家に帰ってきてほしいとお願いをしにきた。

アタシは、義父に対して『アタシはあんたたちの家の家族を一生うらみとおして生きて行くことになっている以上は仲直りをすることはできないわよ!!』怒った。

アタシは、駐車場のゴミ箱の整理をしながら義父にこう言うた。

「あのね!!今のアタシは、あんたたち家族を一生うらみとおして生きて行くことを決めた女だから、あんたらがどないに言うてもアカンもんはアカンけん!!分かっとんかしら!!アタシは今バイト中だから、用がないのだったら帰んなさいよ!!」
「こずえさん…どうしても帰ることはできないのかな…今、家はものすごく困っているのだよ…」
「何なのかしらその言いぐさは!!あんたの言いぐさは、聞いてるだけでもはぐいたらしい(ものすごくむかつく)んやけど!!あんたたちはひき逃げ事件の容疑者を家族ぐるみでかくまいつづけているから、殺すわよる!!」
「ひろのりのことについてはカンドウしたよぉ…」
「あんたらがひろのりをカンドウしたと言うけど、それで問題がキレイに解決できたと思ってはったら大きな間違いよ!!あんた!!へらみ(よそみ)ばかりをせんと人の話を聞きなさいよ!!」
「聞いているよ…そんなことよりも、ひろゆきが困っているのだよ…」
「ますますはぐいたらしい(ますますむかつく)わね!!アタシに帰ってきてほしいとお願いをしてもアカンもんはアカンけん!!どうしてアタシに無理な要求ばかりをしてくるのよ!?」
「こずえさん…ひろゆきはこずえさんに去られてから仕事がうまく行っていないのだよ…」
「なんなのよダンソンジョヒの虫ケラクソジジイ!!アタシの今の気持ちなんかわかってたまるか!!」
「分かっているよ…」
「分かっとんやったら帰んなさいよ!!」
「帰るよ…だけどこのままでは帰ることはできないのだよ…」
「あんた!!店に居座り続けて営業妨害をするのだったらケーサツを呼ぶわよ!!」
「居座る気はないよ…」
「だったら帰んなさいよ!!」
「帰るよ…だけど、こずえさんがひろゆきの元に帰ると一言いってくれたら帰るよ…」
「もう怒ったわよ!!あんた!!ひろゆきがアタシに帰ってきてと言うのはどういうコンタンなのかしらね!?からだだけの関係で帰ってきてと言っていると想うわよ!!」
「こずえさん、誤解だよ…」
「五階も屋上もないわよ!!ひろゆきがあななクソタワケ野郎になったのは、全部あんたが悪いのでしょ!!あんたの教育方針が悪いからひろゆきたちがボロい子に育ったのよ!!」
「こずえさんあんまりだ!!言い過ぎだよ!!」
「やかましい!!ダンソンジョヒ主義者!!ぶっ殺すわよ!!」

アタシは、ひと間隔空けてから義父にこう言うた。

「あんたね!!立派に子供たちを育て上げてきたと言うのであれば、どういうところが立派なのかを言いなさいよ!!口先ばかりでえらそうに言うなよクソシュウト!!」

アタシは、さらにひと間隔を置いてから義父にこう言うた。

「あんたは、ひさよをかわいがるだけかわいがりすぎたと言うことにゼンゼン気がついてへんみたいね!!そんなこすいことばかりをしてはったけん、他のきょうだいたちに嫌われてしまうのよ!!分かっとんかしら!?」
「分かっているよ…そんなことよりもこずえさん…」
「やかましいわね!!実の娘の身体をおもちゃにしたクソタワケジジイ!!アタシは、あんたらのことは一生うらみ通すから!!アタシのことをブジョクするだけブジョクしておいて何が帰ってきてほしいよ!!あんたね!!アタシは今バイト中なのだから帰んなさいよ!!帰んなさいよと言っているのに店に居座り続けて営業妨害をするのだったら、アタシの知人の男に電話するわよ!!知人の男が運転するダンプカーで家をぺっちゃんこにつぶすから覚悟しておきなさいよダンソンジョヒのストーカーシュウト!!」

アタシは、ゴミ袋に入っているゴミを義父の頭からかけてゴミまみれにしたあと、義父をにらみつけていた。

アタシは、ひろゆきの家族に対する怒りをさらに高めていたので、双方に生じた溝はますます深くなっていた。

もはや、関係の修復は不可能であった。
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