先輩の彼女
「頼むぞ、谷岡!」

「すんません!」

少しの距離なら、大声で指示する。

なんかこれが、編集部っぽくていい。

「やっぱり、あったんですね。」

「すまんな、斎藤。」

「いいえ。」

笑顔で応えたけれど、山田さんは素っ気なく、自分の仕事に戻ってしまった。

異動してまだ1ヶ月もしていないって言うのに、私はもう編集部の人間じゃないんだ。


そして、戻ってきた谷岡くんは、自分の席にあった書類を、私に渡してくれた。

「はい、久実さん。」

「有り難う。」

渡された新刊には、レディースが数冊ある。

あれ?

これ、私一人で初版販売企画、考えるの?


「谷岡くん、わざと持って来なかったんでしょ。」

「バレました?」

「ちょっと!」

本気だったら、ちょびっと怒りたい気持ちだよ?

「冗談ですよ。久実さんに直接渡そうと思って。会議終わるの待ってたんですけど、途中で呼ばれてそれっきり。」
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