先輩の彼女
直接渡したかったって。

さっきの会話と言い、谷岡くんにからかわれてる?


「じゃあ、週末。」

「ああ、」

コピーに戻ろうとする谷岡君の、腕を掴む。

驚いた顔で振り返る谷岡君と、目が合う。

「私、今週末までこの新刊の企画、考えなきゃいけなくて……」

「ダメって事ですか?」

谷岡君は途端に、シュンとした声になった。

「ごめん。」

だって、できない約束しても、谷岡君が可哀想だし。

「とりあえず、間に合うように頑張って下さい。」

「えっ?」

谷岡君は、それだけを言うと、また仕事に戻ってしまった。


そりゃあ、私だって間に合うようには、するけどさ。

ため息をつきながら、新刊の一覧を見て、また小さくため息をつく。

こうしている間にも、営業戦略考えなきゃ。

私はコピーを取る谷岡君の後ろを、そーっと通った。


「久実さん。」

「は、はい!」

思わず体が、ビクつく。
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