追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました2
「ノアール様も、重いのに持っていただいちゃってすみません。ありがとうございます」
 アイリーンの手が俺から離れてしまうのが寂しい。
 その眼差しが俺からノアールに向いてしまうのも、悲しくて堪らなかった。
「なに言ってるの。重いからこそ、一個ずつでしょ」
 ノアールがヒョイとバスケットを持ち上げて微笑むのを、俺はなんとも言えない思いで見つめた。
 獣姿の俺が運ぶのを手伝おうとすれば、自ずと銜えることになる。だけどそれを試みた結果は、菓子を狙おうとする躾の悪いペット扱いだ。
 しょんぼりと目線を落とせば、視界に毛むくじゃらの前足が飛び込んだ。おもむろに右の前足をひっくり返せば、ピンク色の肉球と毛に包まれた短い指がついている。
 だけど、バスケットを握るも出来ない短いそれは、指と呼ぶのもおこがましいと思った。毛むくじゃらも肉球も、いい加減、飽き飽きだった。
 肩を落としていると、頭にポフンッと手が置かれる。
 視線を上げれば、アイリーンが余裕の笑みを浮かべて俺を見つめていた。その口が、ゆっくりと開かれる。
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