追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました2
 この一週間、私は日が暮れた後に、プリンスが人目を忍んでカフェにやってくるのを心待ちにしていたのだ。なのに……。
「プリンスの馬鹿」
 私だってプリンスのこと、モフモフしたい。
 だけど今日はまだ仕事中で、モフモフできない。
 突然現れた魅惑のモフモフを前にして、私はグッと堪えていたのだ。
「なのにプリンスってば、おばあさんにモフモフされて喜んじゃってさ……」
 ルークにカーゴの葛藤を指摘され、自己嫌悪に陥った。だけど、その直後に目にしたのは、へっへっと息を弾ませて舌を出し、おばあさんとじゃれるプリンスの姿だった。
「悩んでるにしたって、ずいぶんと満喫しちゃってるじゃない……」
 思い出せば一気に足が重くなり、道の途中で足が止まった。
「……だめだめ! プリンスの件とカフェは別だわ! シーラさんが待ってくれているのよ、早く行ってきちゃわなきゃ!」
 私はバスケットを深く持ち直すと、気を取り直して大きく一歩を踏み出した。山頂を見上げれば、これから向かう養蜂場の赤い屋根が見えた。
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