追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました2
「出発はここの営業を終えて、片付けまで済ませてからでいいですか? それから雇用の形態も、そこの書面にある年間契約はできません」
 私の答えに、クロフはこぼれ落ちそうなくらい目を見開いて、小さく唇を震わせた。
 プリンスはビクンと体を跳ねさせて、物言いたげに私を見つめた。その目には驚きだけではなく、傷ついた色が浮かんでいた。
「……私と共に、来てくれるのですか!?」
「はい。私のお菓子作りが、少しでも弟さんの役に立てるなら、行かせてもらいます」
 クロフは勢いよく椅子を立ちあがると、テーブルの向かいから腕を伸ばし、卓上に置いていた私の手をギュッと握った。
「ありがとう! 心から感謝する、本当にありがとう!!」
 クロフは私の手を額に押し当てるようにして、感謝を叫んだ。
 ……本当は、国境を跨ぐことに迷いがあった。特に今回は物見遊山とは違い、現地で働くことになる。しかも私が働く場所は街の商店などではなく、ラファーダ宮殿だ。不安ならば、断った方が無難だと、頭では理解していた。
 けれど、クロフの喜び勇んだ姿を見れば、私の決断は間違っていなかったのだと確信した。
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