追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました2
 ……ふぅ、ひと安心だ。
 俺はホッと安堵に胸を撫で下ろした。
 それにしても、アイリーンは車内にいるというのに、厚手のカーディガンを引っ張り出して羽織っているじゃないか……! 可哀想に、マイベリー村の暖かな陽気に慣れていた彼女には、いまだ冬の気配が残る北の大地は寒いのだろう。
 震える彼女を俺のモコモコの毛皮で温めてやりたくて堪らなかった。すぐにでも駆け出したい衝動を、俺はありったけの理性を寄せ集めて、なんとか抑えた。
 ……いっそのこと、俺の毛でストールでも作って彼女に届けるか!? 思いついた名案に、パァッと笑みが弾ける。
 ……いや、待てよ。俺の前足ではハサミが持てん。毛を刈る手段がないな……。
 しかし、肉球の前足がネックとなり、目論見は早々に頓挫した。
 こんなふうに、アイリーンのことで頭がいっぱいの俺は、御者台で手綱を握る奴の片眉がピクリと動いたことも、車窓にビタッとルークが張り付いていたことも、気づかなかった。

 その後は、慎重を期して馬車を追った。馬車は軽快に進み、昼頃に小さな食堂の前で停車した。
 ……そうか、アイリーンたちはここで昼飯か。
< 86 / 216 >

この作品をシェア

pagetop