追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました2
 しかも驚くべきことに、奴は、俺が身を潜める向かいの茂みに向かって一直線に歩いてくるではないか――!
 お、おい!? なんでこっちに来るんだ!?
 鼓動がバクバクと忙しなく打ち付ける。フンガフンガと荒くなった鼻息で、葉っぱが揺れる。俺は皿のように見開いた目を血走らせ、奴を見つめた。
 奴は迷いのない足取りで、真っ直ぐにこちらに向かって歩いて来て、茂みの前でピタリと足を止めた。
 俺はビクリと肩を跳ねさせて、ヒュッと息を吸ったところで呼吸を止めた。それに伴って、葉っぱの揺れも収まった。
 ……奴がどんな魂胆を持ってやって来たかは知る由もない。だが、ヤレるもんならヤッてみろ! ヤラれる前に、俺がヤッてやる――!
 俺は戦闘モードのスイッチをオンにすると、葉っぱ越しにギンッと奴を睨みつけ、握った右の拳に力を篭めた。
 奴が腰を屈め、体勢を低くする。
 ……っ、襲ってくるか!?
 ところが、予想に反して奴は、俺に襲い掛かっては来なかった。
 ――ポン。
 腰を低くした奴は、小脇に抱えていたなにかを地面にポンっと置くと踵を返し、サッサと食堂に戻っていった。
 ……っ、ぷはぁあぁああ~。
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