瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 思慮を巡らせ、カインは敵意を露にする。ところが対峙したゲオルクからは抵抗する素振りはおろか、憤りも憎しみも感じられない。

 鉄紺の瞳はこんな状況なのにも関わらず穏やかで、さっきから自分ではなく、その眼差しは神子に向けられている。

 カインは殺気を収め神子の顔を一度見ると、自分の直感を信じてゆるゆると事情を話しはじめた。

「信じてもらえないかもしれませんが……」

 神子のもつ能力について、神との契約を無効にするため動いたことなどをカインは手短に説明する。

「なるほど。なら随分と中途半端な状況になったわけだな」

 話を聞き終え、ゲオルクは呆れた調子で答えた。頭が重く、のろのろと自分の血濡れた手を見つめる。

「まったく最初から殺す気だったなら、躊躇わずに思いっきり刺せばよかったものを……」

 ひとり言にも似たゲオルクの呟きにカインは目を見張った。

「まさか、わざとですか?」

 ゲオルクの態度から薄々とそんな感じはしていた。神子が傷ひとつない状況なのにも合点がいく。ゲオルクは息苦しそうに目を閉じ、口角を上げた。

「俺は……他人になにを言われても自分の見る目を信じているんだ」

 レーネの今までの言動を思い出し、納得するのと同時になにも理解できていなかった自分を不甲斐なく思う。

 レーネが踏み込ませないのもあったが、ゲオルク自身が強く踏み込めなかった。程よい距離を保っていないと彼女を失う気がした。

 結局、自分にとって居心地がいいようにしていただけだ。レーネの本当の願いも、抱えていた葛藤も事情も知ろうとしなかった。
< 123 / 153 >

この作品をシェア

pagetop