瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 ゲオルクは意を決し、下半身をひきずって気を失っているレーネのそばに移動する。左右で色の異なる瞳は瞼で覆われ、レーネの目尻は涙で濡れている。

 ゲオルクは腕を伸ばし、涙の跡を親指でそっと拭う。そして彼女の頬に手を添えた。

「レーネ。お前の運命、俺が半分背負ってやる。だから必ず終わらせに来い。次はお前の願いを全部叶えてやるから」

 憎まれても、恨まれてもかまわない。もう彼女が自分に笑顔を見せることがなくても、短剣を突き刺しにやってくるだけだとしても。

「きっと見つける。どんな姿になっても、どんなに時が経っても」

『むしろ月だな。それも闇夜を照らす満月だ』

 金色の瞳を見て、レーネに告げた。彼女にとっては忌々しいものだろうが、ゲオルクの印象は変わらない。この瞳に魅入られ、彼女自身に惹かれた。

 想いを口にするのを(こら)え、ゲオルクはレーネの左瞼に口づける。

 次は手放さない。勝手にいなくなるのは、離れるのは――。

「許さない。絶対に許さないからな」

 目を覚まさないレーネに力強く告げ、名残惜しく彼女から離れる。遠くに人の気配を感じて、ゲオルクはカインにレーネを連れていくよう命じた。

 レーネに今のやり取りを含め、余計な話は一切しないと約束させる。いずれ剣を向けなくてはならない相手の気持ちなど、レーネを惑わせるだけだ。

 カインが短剣をゲオルクに託したのは、せめてもの敬意だった。遠い未来、彼なら神子の運命をなにか変えてくれるのではないかとの期待もあった。

※ ※ ※
< 124 / 153 >

この作品をシェア

pagetop