瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 レーネの顔色を呼んだクラウスは、軽く息を吐くと自身の襟元に手をかけ釦をはずしていく。

 シャツの隙間から肌が覗き、思いがけない彼の行動にレーネは目を丸くした。続けてクラウスは困惑めいた表情でレーネの頭を撫でる。

「見せたら、お前が気にすると思ったんだ」

 なにを、とは言われなくてもレーネはすぐに悟る。クラウスの左鎖骨には傷に似た痣がある。遠い昔にレーネがつけた、自身の運命を彼にも背負わせた消えない証だ。

 クラウスが肌を隠していたのは、まさか自分のためだったとは思いもしなかった。彼の優しさと申し訳なさでレーネはクラウスを直視できず伏し目がちになる。

 すると、それを阻むかのようにクラウスはレーネの顎に手をかけ上を向かせた。

「そんな顔をするな。可愛い顔を見せていろ」

 レーネは目を瞬かせ、黄金の双眸でクラウスを見つめる。可愛い顔と言われてもどういうものなのか理解できない。戸惑うレーネにクラウスはさらに顔を近づけ囁いた。

「さっきみたいに笑っていればいいんだ」

 それだけで十分だ。罪悪感で従わせるなんて冗談じゃない。

 一瞬の静けさがふたりを包み、先に動いたのはクラウスで、おもむろにレーネに口づけた。彼女の柔らかい唇の感触を堪能するように幾度となく重ねる。

 レーネも受け入れる姿勢で、クラウスは満足気に彼女の肌に触れる。しかし、じんわりと皮膚が汗ばんでいるのに気づき、素早く唇を離した。
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