瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 レーネは真っ新なシュミーズに身を包み、いつものソファで仰向けになっていた。

 天井が回っている気がするのは疲れているからか。この光景をもう一度目にするとは思ってもみなかった。

 ここは国王の自室でレーネは寝支度を整え、部屋の主を待っている。

 今日一日だけで色々なことが起こりすぎた。目まぐるしい展開を振り返るが、どこか夢見心地になる。

 湯浴みの後に会ったタリアはレーネを見て泣き出しそうな顔になった。必死に言い訳を考えた末、庭を散策していたところ、隠し通路を見つけ好奇心で森まで抜けてしまったが、迷ってしまい雨に降られたと説明した。

 タリアがそれで納得したかどうかはわからないが、彼女はなにも聞いてこなかった。心配をかけてしまったのには変わりない。

 レーネはそっと目を閉じる。今後のことを考えると無邪気に幸せに浸るわけにもいかない。クラウスとのわだかまりは消えたが、共に抱えている運命はなにも変わっていない。

 長く息を吐いて呼吸を整える。体調もやはりよくない。倦怠感が拭えず食欲も湧かない。どうしたものかと頭を悩ませていると、部屋のドアが開いた。

「遠慮せずにベッドで休んでおけばいいものを」

 呆れた声色には心配も混じっている。レーネは肘をついておもむろに上半身を起こす。長い黒髪が重力に従い、肩を滑る。

 クラウスはいつもより遠慮なくレーネの隣に座ると彼女の髪を一房掬い取った。
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