瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
「レーネが大事にするのは妹や国か? 俺を立派な国王にすることか?」

 降ってきた声から感情は掴めない。おそるおそる顔を上げると、クラウスが切なげに問いかけてきた。

「そんなにこの国と自分の国の未来が不安か? 俺には任せられないほどに」

「そういう意味じゃ」

 慌てて否定しようとする前にクラウスがレーネに顔を近づける。おかげで続きは言えず、レーネは息を呑んだ。

「だったら信じろ。お前の願いどおり、立派な国王になったつもりだ」

 面と向かって強く告げられ、レーネの思考が止まった。自分を見つめる鉄紺の瞳はけっして揺れず、すべてが奪われる。

「結婚した理由? 簡単だ、お前が欲しかったんだ」

 はっきりと告げてからクラウスは固まっているレーネの頬に触れる。

「ずっと前から……レーネのすべてが欲しかった。レーネだけだ。他の女なんて目に入らない」

 飾り気のない言葉はレーネの心の奥を揺さぶり、沁みていく。

「なに、それ。そんなこと言って私に短剣で刺されるつもりだったの?」

 この溢れてくる感情はなんなのか、正確に掴めない。苦しくて、息が詰まりそうになる。逆にクラウスは穏やかに微笑んだ。

「俺がどうなっても、お前が俺の妻に、俺のものになった事実は変わらないからな」

 さらには、ゾフィとやりとりしていたのもそうなったときのためだったと聞かされ、自分のためだったと思ってもみなかったレーネは驚きが隠せない。
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