瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 ルディガーは自分の言いたかったことが伝わっていなかったのだと思い、言葉を選び直す。

「これは俺が言うべきではないとは思うけれどあいつは、君のことを」

『陛下はマグダレーネさまを愛していらっしゃいますよ』

「愛していません」

 タリアの発言も合わさりレーネはきっぱりと否定する。かぶせられた言葉に誘われレーネを見ると、彼女の顔がくしゃりと歪んだ。 

「あの人は私を……フューリエンを愛してなどいない!」

 ここにきて、無機質だったレーネの感情が初めて爆発した。それが怒りなのか悲しみなのかは判別できない。声を荒げた後、レーネは唇を噛みしめてうつむく。

「それどころか嫌って憎んでいる。……恨んでいるんです、自分の手で殺したいほどに」

 ひとり言にも似た呟きを残し、レーネは部屋を出ていった。ルディガーとしては、予想もしていなかった反応に混乱するばかりだ。

「どういう……ことでしょうか?」

 静観していた副官の問いも耳を通り過ぎていく。

 たしかにクラウスとレーネの間になにか因縁めいたものがあるとは感じていた。とはいえ互いの性格や態度ゆえに、素直になれないだけだと思っていたのだが……。

 どうやらそんな単純な問題ではないらしい。少なくともレーネの追い詰められ方は深刻だ。このふたりの間にはもっと根深く複雑な事情が絡みついている。

 自分はまた余計なことをしたのかと後悔しつつ、今さらながらルディガーはセシリアを連れ、レーネの後を追った。
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