瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 傾きかけた陽射しが一筋も部屋には差し込んでこない。ただ湿気さえ除けば、本を保管するには適した環境だ。

 まだ夜には早いが、ライラは洋燈を灯して書物庫の中を歩き回っていた。そして、お目当ての棚の前で一冊の本を取る。

 洋燈を棚に置き、その明るさで中身を確認してしばらく経ったそのときだった。

「ライラ」

 聞き慣れた声に本から顔を上げる。入口の薄暗い中から姿を現したのは彼女の夫であるスヴェンだ。

「どうした、こんなところで? マーシャが心配していた」

「うん、ちょっと……」

 悪戯(いたずら)がばれた子どものような気まずさを覚え、ライラは言葉を濁した。この部屋は古今東西の書物の他、王家や城に関する貴重な資料なども保管されているので、誰もが入室はできない。

 アルノー夜警団のアードラーであるスヴェン本人はもちろんだが、その妻であるライラだから許可された面は大きい。

 しかし元々誰に対しても優しく親切なライラの性格を考えると、立場に関係なく見張りの者に入室を許されそうではある。

「お仕事は?」

「今日はもう終わった」

 ライラの質問にスヴェンは端的に答える。無造作ながら艶のある短い黒髪に、吊り上がった眉と鋭い眼差し。

 ルディガーとは対照的に愛想の欠片もなく、冷たい印象を抱かれがちだが、これでも結婚して少しは丸くなった。

 現に今もライラの世話役のマーシャに彼女の行方を聞いて、わざわざ迎えに来たらしい。

「少し、調べ物をしてたの」

「調べ物?」

 ライラの答えにスヴェンは怪訝な顔になる。薬草に関してだろうかと思ったが、ライラが続けた内容は予想外のものだった。
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