瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
「うん。フューリエンについてなんだけど」

「……なぜ?」

 今になってなのか。ライラはたしかにフューリエンと同じ片眼異色でたくさんの苦労をしてきた。けれど今は瞳の色も両目共に同じになり、その呪縛から解き放たれている。

 スヴェンの顔色を読み、ライラはおずおずと説明しだす。

「私、叔母さんから聞いて、そういうものだと思っていたけど、改めて考えたらどうして片眼異色の女性はみんな決まって十八歳になれば瞳の色は戻るのかしら。そもそもフューリエンってどんな存在だったの? 私には不思議な力など微塵もないけれど、なら瞳の色だけどうして今も受け継がれているんだろうって」

 昼にレーネと会い、片眼異色の話をしてライラの中の疑問が膨れ上がっていった。自分の身に起こったことなのに片眼異色についても、フューリエンについてもなにも知らない。

 スヴェンはライラに近づくと労るように彼女の頭を優しく撫でる。

「なにか不安なのか?」

 尋ねたスヴェンの方が不安そうだ。自分を気遣ってなのだと思うと少し嬉しいが、そんな表情は夫には似合わない。スヴェンの心配を吹き飛ばず笑顔でライラは答える。

「そういうわけじゃないの。私、幸せだよ。ただ……」

 突然、スヴェンが身を翻しライラを背に庇う姿勢を取る。意味がわからず目を見開くライラだが、やがて書物庫の入口の方から人の気配があった。

「フューリエンについて調べるのはやめなさい。彼女に深入りするのも」

 現れたのは王の補佐官であるバルドだ。片手に洋燈を持った彼の姿は、長く白い髭と眉が照らされ皺だらけの顔に影ができ、不気味なものだった。
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