瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
「どういうことだ?」

 ライラの代わりにスヴェンが問う。ライラもバルドとは顔見知りではあるが、正直この厳格な補佐官が少し苦手だった。

 気のせいでなければ、彼の自分を見る目にときどき憎悪が混じるのだ。それは片眼異色を見て禍々(まがまが)しいものだと嫌悪してきた人々と似ている。

 バルドはライラを一度見て、スヴェンに視線を戻した。

「バルシュハイト元帥、奥方が片眼異色だった経緯は聞いております。苦労されたでしょう。しかし忌々(いまいま)しい呪いから解放された今、余計な詮索は無用です」

 バルドの指摘は的を射ているようで妙な違和感を抱かせた。その正体にスヴェンはすぐに気づく。

「随分な口の利き方だな。王の補佐官からフューリエンに対する敬意が感じられないとは」

 皮肉っぽく答えてみたが、バルドの表情は変わらない。(あが)(たてまつ)れとまでは思わない。王国の成立にまつわる伝承がどこまで真実なのかも不明だ。

 しかしフューリエンの存在を毛嫌いするのもいかがなものか。ましてや王家に近い人間なら尚更だ。

 ルディガーからバルドがレーネに対し、よくない感情を持っていると聞いていた。彼女の王に対する不遜な態度が問題だと。だが、それだけではないらしい。

 レーネがクラウスの探していた相手なら、フューリエンとまったく関係ないわけがない。先ほどバルドが深入りするなと告げた『彼女』はおそらくレーネを指している。

「フューリエンにあまりいい印象を(いだ)いていないようだな」

 スヴェンから切り出すとバルドは眉間に皺を寄せ、ややあって大きく息を吐いた。
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