瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 ひとりで使うには広すぎる王の執務室で、クラウスは眺めていた書類を机上に放り投げた。日没した今も部屋に備え付けられた洋燈が灯り、煌々(こうこう)と室内を照らしている。

 肘を突いて前髪を掻き上げた後、彼は机の引き出しに手をかけた。重厚な造りで多少の力が必要な挙げ句、開ける際の擦れる音がいちいち不快ではあるのだが、もう慣れた。

 そこには革で作られた長方形の箱が入っていた。これといった装飾はなく筆入れほどの大きさで、それにしては頑丈な造りになっている。

 経年変化の結果、黒の混じった孔雀色に落ち着き、表面は光沢を放っている。その箱を机の上に取り出すとクラウスは慎重に箱を開けた。

 中身はさらに薄い布で包まれており、軽く手で払うと最初に剣先が姿を現す。(つか)(つば)は黄金色で刀身はそこまで長くない。正確無比のシンメトリーで(かたど)られた短剣がそこに沈んでいた。

 クラウスは軽く柄を取って手に握る。見た目より重量があり、柄の部分は何度も握られたのか鍔に比べると色も落ちて手触りも滑らかだ。

 その感触を確かめるように幾度となく柄を握り直すと王は自嘲的な笑みを浮かべる。

「そろそろ終わらせるか。いい加減、傷痕も(うず)く」

 クラウスの左鎖骨辺りには古傷のようなくっきりとした痣があった。印と呼ばれ王の素質を持った者の証とされているが、本当のところなにが真実なのかは誰も知らない。
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