瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 レーネは王の自室にあるいつものソファで膝を抱えて頭を埋め、身を縮めていた。

 ルディガーの部屋を一方的に出てきた後、すぐにレーネを追ってきたルディガーとセシリアにより彼女はタリアの待つ自室へと送り届けられた。

 その際、余計な会話が一切なかったのは彼らなりの気遣いなのだろう。感情的になってしまった自分を悔いるが、どうしようもない。

 タリアにも心配をかけさせてしまった。湯浴みを終えタリアと共にここに足を運ぶ間、レーネは黙ったままだった。

『体調が優れないようでしたら、今日は自室で休まれますか?』

 国王の妻となったレーネを彼の寝室まで連れて行くのもタリアの仕事だ。そんな彼女から飛び出した発言にレーネは目を丸くする。

 国王の命令を最優先しなくてはならない立場のタリアが、どれほどの覚悟をもってかけた言葉なのか。ましてや彼女はおそろしく律儀で義理堅く、王家に敬意を払っている。

 顔を強張らせているタリアにレーネは微笑んだ。

『私は平気よ。ありがとう』

 どんな状況でも必ず優しい人間はいる。悲観的になってそれを見逃しては駄目だ。レーネは自分を奮い立たせ王の部屋へとやってきた。

 あれこれ思い出していると、部屋の扉が開く音が聞こえる。レーネは顔を上げず、気配が近くなるのを悟り、つい息を殺した。

「タリアから聞いた。調子があまりよくないんだって?」

 深刻さがないのは、わざとか。それでも相手の声にはわずかに心配も滲んでいる。

 こんな生活、体に毒なだけよ。

 そう返そうとして、喉元で押し留めた。代わりに抱えた膝にさらに顔を沈める。
< 62 / 153 >

この作品をシェア

pagetop