瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 クラウスは当然のようにレーネの左隣に腰を下ろした。沈黙が互いを包み、こもる自分の息遣いと心臓の音が耳につく。

 いつもより鼓動を早く感じるのは、緊張しているからだ。そう、ここで……彼と一緒にいて心安まるときなど一時もない。

 膝に回した腕に力を込めると、不意に頭に温もりを感じた。

「そんなにつらいなら部屋に戻るか?」

 つらいとはなにを指すのか。体調か、この状況か、それとも……。

 神妙な声色に反発するかのごとくレーネは顔を上げて隣にいる男を見た。

「あなたは自分の立場をわかっていない!」

 突然のレーネの指摘に、さすがに意表を突かれる。目を丸くするクラウスにレーネは勢い余って続けた。

「あなたは国王なのよ。仮にも結婚した相手が(ねや)を共にせず自室で休んでいるなんて知られたら、王の沽券(こけん)に関わり妙な噂や不信感を呼ぶ。気軽にそういうことを言わないで」

 立て板に水で捲し立て、レーネは息を切らした。男女逆の立場ならかまわない。政略結婚などよくある話で、国王が正妻以外にも他の女の元へ行くのはまかり通る。実際にそうすればいい。

 自分なりの筋を通して言ったものの相手からの反応は得られない。再び部屋が静まり返り、レーネが身の振り方に迷っていると、クラウスがわざとらしく息を吐いた。

「こんなときでも心配するのはそこか。……本当に変わらないな、お前は」

 困惑気味に微笑み、彼はソファの背もたれに肘を突いて体を預ける。姿勢を崩した王をレーネはじっと見つめた。
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