瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 彼の言葉をどう受け取るべきなのかわからないが、冷静になれば出過ぎた真似をしたと実感してきた。

 今の自分はクラウスに王の在り方などを説く権利はない。余計な感情や記憶を呼び起こさせたと少しばかり後悔する。

 クラウスはレーネの葛藤を無視して、空いている方の手で彼女の髪先を掬い上げた。もはやお馴染みの行動にレーネはいちいち拒否するのも馬鹿らしく、なにも言わずに眉間に皺を寄せる。

「つまり俺のために、ここにいてくれるのか」

 からかいを含んだ口調に目が点になる。まさかそういう捉え方をされるとは、思ってもみなかった。おかげであれこれ言い訳を述べる前に率直に否定の言葉を口にする。

「ち、違う。自惚(うぬぼ)れないで!」

「心配してくれるのは有難いが、俺の信用はお前の行動ひとつで揺らぐほど脆くはない」

 頬が一瞬で熱くなり、レーネは反射的に顔を背けた。自惚れていたのはどちらなのか。レーネはぐっと握りこぶしを作り、唇を震わせる。

「大変、失礼いたしました。ならば気分が悪いので、陛下のお言葉に甘えて自室に戻ります」

 慇懃無礼に告げ、膝を伸ばして立ち上がろうとする。しかし、その前にクラウスがレーネの腕を掴み、素早く阻止した。

「悪いのは、気分ではなく機嫌のようだが?」

 余裕たっぷりに指摘され、レーネは中途半端な体勢で眉をひそめる。

「どちらでも同じでしょ?」

 早く腕を離してほしくて力を込めたが、逆に引き寄せられて再度ソファに腰を沈める。王との距離が近くなり彼はまっすぐにレーネを見つめた。
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