瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
「……マリーが好きな人ができたって話してた。でも外部の人間だから諦めないといけないって。ミリアンは海が見たいらしいの。本で読んだけれど本当にあるのが信じられないって」

 たどたどしく村の娘たちについて語る。神子の立場ではあるが、同じ年頃の娘とはそれなりに親しくしている。神子自身があまり特別扱いを望まず彼女たちに声をかけているというのもあるが。

 そこで聞くのは楽しい話ばかりではない。自分の影響を受け、左目が金色となり生まれてきた彼女たちの苦悩も含まれていた。

 両方の瞳の色が異なる場合がほとんどで、その見た目から外部の人間には恐れられるのは長い村の歴史からわかりきっている。

 おかげで本人の希望とは裏腹にこの狭い村から出ずに生涯を終える者が大半を占めていた。

 たった一度きりの人生を諦めて過ごす。そんな者たちを嫌というほど見てきた。それはすべて自分の身勝手な神との契約のせいだ。

 神子は唇を噛みしめ、顔を上げる。髪で隠れていた視界が開け、カインをまっすぐに見つめた。

「終わらせたい。……終わらせないといけない。そのためなら、誰かに刃を突き立てる覚悟はあるわ」

 曇りひとつない左右で異なる色の瞳がカインを射貫く。彼もまた覚悟を決めた。

「わかりました。ならばこの命をかけてでもあなたにお仕えします。しかし、すぐに行動には移せません」

「そうね」

 そもそもこの力を譲るにしても、相手を誰にするかという問題はある。当然、誰でもいいわけではない。

 できれば無理矢理押しつけるよりも自ら記憶保持を望む者が有難いが、どのようにして探せばよいのか。
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