瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 彼女の隠されていた左目は光を集めたかのような鮮やかな金色で、右目と色が異なっていた。
すぐにうつむいた少女は乱暴に左目をこすろうとする。

「こするな!」

 反射的に告げ、ゲオルクは少女の頬に手を添えると強引に上を向かせた。

「まったく賢いのか馬鹿なのか、どっちだ」

 呆れつつ持っていた白い清潔な布で彼女の目元を拭う。涙で浮かされた異物は無事に取れた。

「……ありがとう」

 もう隠しても無駄だと悟り、少女はそのまま小さくお礼を口にする。

「これで片目を隠していたのも納得だ」

 改めて少女の異なった瞳をゲオルクはじっと見つめた。こんなにも村人以外の人間に見つめられるのは滅多にない。

 神子以前にも、この瞳を見る人間のほとんどが偏見の目を向けてきた。顔を強張らせていると、ゲオルクはふっと微笑む。

「いいんじゃないか。鷲みたいに聡明で……と、女を鷲に例えるのは失礼か?」

 意外な反応に驚きつつ少女は静かに首を横に振った。

「いいえ。姓がアルントならまずはそう思うでしょうね」

「そこまで頭を回すとは、お前は本当に何者だ?」

 驚いたのは彼も同じだ。アルントは、元々『鷲の君臨者』などの意味を持つ。しかしそこまで知っている者は少ない。

 問いかけられた少女は案の定、答えない。ゲオルクは癖のない自身の黒髪をくしゃりと搔いた。

「とりあえずこちらは名乗ったんだ。お前の名前を教えろ」

 そうは言われても困惑しかない。生まれたときから『神子』と呼ばれる自分には名前はない。もう何世代も前からだ。

 しかしそんな事情を話すわけにもいかず、とっさに適当な名前も浮かばない。
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