瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
　突然目の前に現れた少女はなんとも不思議な存在だった。見かけだけではなく性格もまったく掴み所がない。

　とにかくその知識はどこからくるのか。流行病(はやりやまい)に対する適切な処置や予防法、治らないと思われていた疾病(しっぺい)に効く特効薬を容易(たやす)く調合し、天候から起こりそうな災害を予見するのと同時に対策を促すなど枚挙にいとまがない。

　また知識だけではなく人の心理を読む力も非常に長(た)け、気難しい人間との交渉や駆け引き事も難なくこなす。とても十代の娘とは思えない言動の数々にゲオルクも正直、舌を巻いた。

　見聞きして間接的に得たものと、体験して直接得たものとではその重みが違う。しかしどうしてかレーネの言うこと、為すことすべて確信と自信に満ちていた。

　まるですべて自身が経験してきたかのような振舞いだ。しかし、レーネ自身はけっして表立って主導になったりはせず、あくまでもゲオルクに助言する形を徹底する。

『私はあなたをこの地の新しい王にする。そのためにここに来たの』

　ゲオルクとしては王になる野望もなければ興味もない。ところが、レーネの行動により結果的に自分を慕う人間が増え、いつのまにか統治する領地も増えている。

　最近ではレーネの思惑通り、何人かの領主たちが彼を王とし新しく国を立ち上げようとする動きも確認されていた。

　レーネがゲオルクの前に現れて一年が経とうとし、彼の立場もいささか変化しつつある。
< 83 / 153 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop