瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
「聞いております、あなたの敏腕さは。まさに天が与えし聡明さも」

 また今日も遠方から遙々(はるばる)とゲオルクの噂を聞きつけて権力者が会いにやってきていた。鬱陶しいことこのうえないが、面会を拒否するとレーネがうるさい。

 彼女の提案で拠点となる城を用意したのが、会う人間を増やすのに拍車をかけている。

「おだててもなにもでないぞ」

 至極つまらなさそうにゲオルクは嫌々答える。自分の父親とそう年齢も変わらない男性が愛想笑いを必死に振りまき腰を低くしているのが滑稽だ。

 年頃の娘がいるとかで必死に売り込んできたが、まったく興味もない。

「ところでずいぶんとお気に入りの猫がいらっしゃるそうですね」

「猫?」

 話半分に聞いていたが、唐突な話題にゲオルクは思わず眉をひそめた。自分は猫など飼った覚えはない。男は口角をあげて下賤(げせん)な笑みを浮かべた。

「なんでも片目で毛色が独特なので、魔女か聖女の化身ではないかと」

 ゲオルクは不快感で眉根を寄せた。どこからかレーネの噂を聞いたのだろう。

 上手く隠しているつもりでも、素性もわからない片目を隠した少女を常にそばに置いておけば、それなりの憶測を呼ぶ。

「よろしければ私も一目見せていただきたいのですが」

 野心をたぎらせる男の瞳を見てゲオルクは目線を逸らし一蹴する。

「あれは俺のものだ。見世物にする気も触らせる気もない。()でる人間は一人いれば十分だろ」

 そこで彼は席を立って強引に面会を終わらせた。苛々する気持ちを抑え、外に出る。
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