瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
「だったら、羨ましい?」

「いや、まったく」

 ゲオルクは軽く鼻で笑って否定した。

「限りがあるから皆、後悔しないために真剣に選んで生きているんだ。自分の生き方は自分で決める。そう何度もいらない」

「……あなたらしいわね」

 レーネの表情は笑っているのに、なんだか今にも泣き出しそうなものに見えた。なにが彼女をそんな顔にさせているのか皆目見当がつかない。

 噛み合わない苛立ちに、ゲオルクは眉をひそめる。

「お前の願いってなんだ?

 先ほどレーネが口にした内容を問いかけてみる。少しでもレーネのことを知りたい。不透明な彼女をなんとかして掴んでおきたい。

「私の一番の願いは、あなたが立派な国王になることよ」

 ところがゲオルクの意図など知ってか知らずか、レーネの口からは予想外の回答が返ってきた。

「迎冬会楽しみだな」

 続けてレーネは鼻歌混じりに唱える。これははぐらかされたのか。さらに詰め寄ろうとしたゲオルクだが、言葉を飲み込んだ。

 迎冬会は、厳しい寒さを迎える前に、この城で近隣の領主をはじめとする権力者を集わせ、交流と情報交換の場を設けてはどうかとレーネが提案してきた。

 ゲオルクとしてはあまり乗り気ではないが、レーネの中ではすでに開催するのが決定事項らしい。

「……お前は、どこか貴族の娘なのか? それとも薬師(くすし)か、易者(えきしゃ)か?」

「うーん、全部正解かな」

 質問の角度を変えてレーネに尋ねるが、曖昧な返事しか得られない。それでいて今度は誤魔化すといった感じではないのが、なんとも奇妙だ。

 人の嘘や本心を見抜くのは、それなりに秀でているとゲオルクは自負しているが、レーネに関してはどうも読めない。
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