ワケあり花屋(店長)とコミュ障女子の恋
「今日、香菜のとこに行ってきたんだ。」
「・・・?」
話し続ける海を見たまま椿は話を聞く。
「これからも俺は空を見上げるたびに、香菜を想う。」
「・・・」
「俺、香菜がすべてだった。だから、香菜が死んだとき絶望したし、まして自分のせいで香菜が死んだ事実を認められなくて、自分が許せなくて、死ぬことばかり考えてたんだ。」
椿の表情が海の心の痛みを想いゆがむ。
「死ぬなんて簡単だけど、俺、わかってたんだよな。自分で。俺が自分で命を絶ったら絶対に香菜が許してくれないって。だったら、自分にとって一番つらい香菜のいない世界で、生きる希望も目標もないまま、生きながらえることが罪滅ぼしになるって。そしていつか、香菜が許してくれたら、その時はって・・・」
海は椿の木を見上げたまま、隙間から見える空を見ていた。
「いつか、そっちの世界で会えたら、頑張ったね、もう怒ってないよ。責めてないよって、行ってくれるかなってそう思ってた。だから、ただ・・・毎日を生きてた。ただ、生きることに必死だった。」
「・・・」
椿はいつも店の裏口で空を見上げながら煙草を煙にしていた海を思い出していた。
その時のうつろな瞳も。儚げな姿も。今でも鮮明に思い出す。
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