愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜



もしここで私が断れば、周りは落胆するかもしれない。

それに空気を悪くしかねない。
だとしたら私は───


「さ、沙彩…」
「何?どうしたの?」

「あの、その…付き合うとか、そういうの…まだ分からなくて」


わざと瀬野とは距離をとり、沙彩にピタリとくっつく。

言葉につまらせながら少し恥ずかしそうにすれば、多分もう大丈夫。


「……無理」
「え、沙彩?」

「何このピュアな生き物は〜!
やっぱり瀬野に渡したくないかもしれない…!」


ほら、やっぱり。
沙彩は私をギュッと抱きしめて離そうとしない。

周りから『純粋だ』とか『かわいい』とかいう声も耳に届いた。


これ以上瀬野の好き勝手にさせてたまるか。
こっちだって本気である。

その結果お試しで付き合うという話は鎮まり、本格的にクリスマスパーティーが始まった。


「……やっぱり上手いね、やり方が」


周りが騒がしいことを利用して、瀬野が耳打ちしてきた。

当たり前だ。
やられっぱなしなど許されない。


「瀬野くん、このパスタすごく美味しいよ。
食べてみる?」

「え、食べさせてくれるの?」
「……取ってあげるよ、瀬野くんの分も」


瀬野のお皿を勝手に奪い、パスタを多めに入れてやる。

地味な嫌がらせしかできないのが心苦しいが、純粋に食べて欲しくてたくさん入れた程でいく。


「はい、どうぞ」
「ありがとう。本当にやることがかわいいね」


嫌がらせなのが伝わったのだろう、瀬野が嬉しそうな笑みを返してきた。

それがまた腹立たしい。


思いっきり足を踏んでやりたいぐらいだ。
流石にバレては困るため、できないけれど。

とにかく平常心だと自分に言い聞かせ、なんとかその場を乗り切ようとした。


そのため精神が削られ、異常なほどに疲れたけれど。

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